適格請求書(インボイス)発行事業者として登録するか否かの判断ポイント

■制度開始まで残り1年半を切っています。

 さて、令和5年10月から始まるインボイス制度、開始まで1年半を切るところまで迫ってきています。制度開始時から請求書等に代る「インボイス」を発行する場合には、原則として令和5年3月末までに適格請求書発行事業者の登録申請を行う必要があります。

 インボイス制度開始により一番影響を受けると考えられる小規模事業者や個人事業主に対しての周知が全然進んでいないように思いますが、あっという間に制度開始となり『え!始まっちゃった!どうしよう!』といった事態になりそうな気がしますね。

 弊法人のお客様のインボイス登録申請手続きについては徐々に進めておりますが、今現在免税事業者(消費税を納めていない事業者)のお客様からは、インボイス発行事業者として登録すべきかどうか相談を受けることが多くなってきています。

 ここで今一度、登録するかどうかの判断について考えてみたいと思います。



■現在の状況を確認する

 今現在、貴社(あなた)は消費税の課税事業者に該当していますか?

 現在売上高が1,000万円超あり、消費税を納税している事業者(課税事業者)である場合には、余程の理由がない限りは特に頭を悩ませることもなく、インボイス発行事業者として登録すればよいかと思います。今後発行する必要のある“インボイス”に求められる記載要件等が、従来の“請求書”に比べて多少厳しくはなりますが、そこまで大きくフローが変わることもないかと思いますので、特に気にしなくていいようにも思います。

 一方、現在消費税を納税していない事業者(免税事業者)に該当する場合には、インボイス発行事業者の登録を行う場合、行わない場合でそれぞれ以下のような影響が出ることが考えられます。

 登録を行う場合:消費税の納税義務が生じるので、税負担が増加し資金繰りに影響
 登録を行わない場合:取引先との取引関係に影響(価格交渉・取引停止等)

後者の『免税事業者』に該当する場合は、インボイス発行事業者として登録申請をするか否かについて、大変難しい問題となるのです。



■自身の事業の実態や、ケースを想定して検討を行う

 ①顧客が消費者のみの場合には、必ずしも「インボイス」を発行する必要はない
 自身の主要な顧客がいわゆる“一般消費者”に該当する場合や、消費税を納めていない免税事業者である場合、わざわざインボイス発行をする必要が無いというケースも考えられます。

 例えば、街の美容院や動物病院等、主に一般消費者が顧客である場合、インボイスの発行を求められる機会はほぼ無いかと思います。その場合にわざわざインボイス発行事業者の登録を行う必要はないと判断することもできます。
(もちろん、芸能人の髪セット代や、法人で飼育している動物の治療等、例外はありますが。。。)

 ②課税事業者を選択すると、消費税の申告・納付が必要になる
 インボイス発行事業者の登録を受けた場合は、インボイスの交付が出来るようになるのと同時に、課税事業者として消費税の申告及び納付が必要となります。これまで支払っていなかった消費税を支払う必要がありますので、事業の資金繰りに影響を与えることが考えられます。
 売上が5,000万円以下の事業者が適用できる『簡易課税制度』という消費税計算方法も設けられていますが、これまで消費税を納めていなかった事業者にとっては資金的な負担が増えたと感じるケースが大半かと思います。
 また、確定申告を税理士に依頼している場合、多くのケースでは消費税申告報酬が別途かかります。金額は千差万別ですが、少なからず負担は増えることになります。

 ③取引先・客から「インボイス」の発行を求められる場合がある
 インボイス制度開始後、貴社(あなた)がインボイス登録事業者でない場合、『仕入税額控除』を受けることが出来なくなりますので、インボイスの発行を求められるケースが想定されます。
 消費税の基本的な仕組みは、「預かった消費税」から「支払った消費税」を差し引いた差額を税務署へ納付するといったものです。その“支払った消費税を差し引く”という計算行為を『仕入税額控除』といいます。
 インボイス制度開始後は、インボイスの交付を受けないとこの仕入税額控除が出来ないことになります。取引先は当然仕入税額控除をしたいので、貴社に対してインボイス発行事業者になり、インボイスを発行して欲しいと依頼してくると考えられます。

 ④「インボイス」を発行できないと、課税事業者である取引先から消費税相当分の値引きを要求されたり、取引が見直されたりする場合がある
 上記③に記載の通り、取引先はインボイスの交付を受けないと仕入税額控除ができませんので、控除できなくなる分、取引価格の交渉をされたり、取引条件の見直し等がされることが想定されます。
 最悪の場合、取引そのものが打ち切りとなることも考えられます。取引価格について、独占禁止法上の優越的地位の乱用や、下請法の規制に抵触しない双方納得の価格交渉である必要があるとされていますが、通常の取引先選定プロセスに従えば、条件がいい方に依頼することは真っ当な事業運営であるかと考えられますので、インボイス発行の有無で取引条件が変わってくるということは今後一般的になると思います。



■まとめ

 色々なケースを想定し、消費税負担額を試算したうえで、インボイス発行事業者の登録要否について判断を行うことが必要となります。
 あくまでもインボイス発行事業者の登録を受けるかどうかは事業者の任意ですが、取引の相手方の状況・要求に左右されてしまうというのも事実です。
 本コラムでは説明していませんが、免税事業者等との取引で、インボイス交付がない場合にも一定期間は仕入税額控除を認めるといった経過規定も設けられています。インボイス発行事業者の登録を行わない場合、この経過規定をうまく用いて先方と価格交渉を行うという手段もあるかと思います。

 インボイス制度の開始はまだ1年以上先でしょ?と課題を先送りせず、早めに検討を行い、しっかりと準備を進めて行きたいですね。


横浜税理士法人
税理士・公認会計士 服部 彰男


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