会計事務所泣かせの定額減税

昨年11月、政府の「デフレ完全脱却のための総合経済対策」において、賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和するため、又デフレ脱却のための一時的な措置として、令和6年6月納税者及び配偶者を含めた扶養家族1人につき、所得税3万円、個人住民税1万円の減税を行うこととされた。
給付ではなく減税を行うこととした理由として、賃金上昇が物価に追いついておらず、国民の負担を緩和するには、国民の可処分所得を直接的に下支えする所得税・個人住民税の減税が最も望ましいと考えたそうである。しかし減税をすることは良いとして問題はやり方である。

まず、第一段階目、そもそも給与所得者は「扶養控除等申告書」を、その年の最初の給与の支払を受ける日の前日までに提出することになっており、これをもとに定額減税の今回の対象者が記載した内容に基づきおこなう。

次に第二段階目として、「扶養控除等申告書」提出の際、対象者の記載漏れや異動があった場合には「源泉徴収に係る定額減税のための申告書兼年末調整に係る定額減税のための申告書」という一回では覚えきれない長い名称の申告書に基づきおこなう。
一段階、二段階共に、定額減税の合計所得金額が1,805万円(給与所得の場合2,000万円)を超え最終的に定額減税の対象とならないことが見込まれる人であっても、基準日に在職している場合には、月次減税の対象となる。年間の役員報酬4億円の株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)柳井正会長兼社長も理屈上は一旦定額減税の対象となる。

そして第三段階目として、令和6年分の年末調整の際、今回の定額減税は適用開始後の令和6年中に減税額の全額を控除できない場合には、令和7年に繰り越さずに令和6年分の年末調整により精算することとされている。
支給する側として毎月の給与で減税対応するのではなく、年末調整時に全従業員一括減税対応をする方法はとれないのかという企業や同業者からの願いもあったが、当局は令和6年6月から開始する定額減税の対象となる従業員について、会社が意図的に月次減税の処理を行わず、年末調整のみで対応する方法については、現状は認めないとのこと。結果、一度定額減税した控除額を納税者から返還させる事態が多数生じることが予想される。

第四段階目として、年明け令和7年3月15日までに実施され令和6年分の確定申告業務の段階で定額減税を実施することが出来るが、ここで初めて数多くの判断業務が入る。近年働きながら給与を得つつ、公的年金も受給するというシニアは珍しくない。このような人は、給与からも公的年金からも税金が天引きされるケースがあり、公的年金等からの源泉徴収においても定額減税を受けることになり、給与と重複して定額減税を受けることとなる。
この場合、還付申告となる場合又は年金所得者に係る申告不要制度により確定申告をしない者を除き、確定申告において最終的な年間の所得税額と定額減税額とを精算することになる。事業所得・不動産所得やその他の所得がどの程度あるかにより定額減税の対象となるか判断に注力せざるを得ない。

そして最後の最後に2024(令和6)年分の所得税と定額減税の実績の額が確定した後、上記の当初給付では不足する金額があった場合に、2025年以降に個人住民税が課税される市区町村から控除不足額を支給するとのこと。

以上のように一段階目から三段階目までは企業側中心で(三段階目は会計事務所と共に)資料を収集しその処理を行うが、第四段階目では会計事務所は多くの判断業務が求められる。判断材料の資料の収集に手間と時間が掛かり誤れば納税者の方々からお叱りを受ける。
日本は憲法で租税法律主義が定められ、租税の原則は「公平・中立・簡素」の3原則があり、今回の定額減税はこの3原則と真逆の方向に進んでおり 仕組みも簡素ではなく、事務処理が複雑過ぎるために、実務を担う経理担当者は勿論のこと我々会計事務所泣かせの制度だと想う今日この頃である。

横浜税理士法人
税理士  服部 久男

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