R6税制改正 交際費金額基準引き上げに関するQ&A
■令和6年度税制改正で交際費の金額基準が10,000円以下へ引き上げ
交際費等の損金不算入制度において、交際費の範囲から除外される飲食費の金額基準が改正前の「1人当たり5,000円以下」から「1人当たり10,000円以下」に引き上げられました。
つい先日、顧問先ではない経営者の方との雑談で「交際費が10,000円までOKになったのだよね?」との話題が出たので、よくよく話を聞いてみると、10,000円までなら何でもOKのような解釈をされてしまっていました。税制改正の報道を表面だけしか読まないとこのような誤解が生じてしまいますね。
今回の交際費金額基準の引き上げ改正につき、飲食費の範囲や適用要件について改めて確認しておきましょう。
Ⅰ.交際費金額基準改正の概要
令和6年度税制改正では、交際費等の損金不算入制度につき“交際費等の範囲から除外される飲食費”の金額基準が1人当たり10,000円以下に引き上げられました。
従前は1人当たり5,000円以下でしたので、倍増、大幅な引き上げです。近年の物価高騰により、都内では1人当たり5,000円以下で飲み放題付コースを探すのも難しくなってきていますからね。これは大きな改正であると思います。
なお、令和6年4月1日以後に“支出する飲食費”からこの改正が適用されます。 ここでのポイントは「飲食費」に限定されているという点です。この「飲食費」の範囲について色々と論点はありますので、細かく確認していきましょう。
Ⅱ.交際費等の範囲から除外される飲食費の範囲
飲食費のうち、その支払額が1人当たり10,000円以下(改正前5,000円)のものについては、次の事項を記載した書類を保存することによって、交際費等から除くことができます。
① 飲食等のあった年月日
② 参加した得意先等の氏名または名称・その関係
③ 参加者数
④ その飲食費の額ならびにその飲食店等の名称・所在地
⑤ その他飲食費であることを明らかにするために必要な事項
「飲食費」というとかなり範囲が広く捉えられがちですが、これは通常、役員・従業員等が得意先等を接待して飲食するための「飲食代」を指すものであり、社内の人間だけでの飲食代(いわゆる社内交際費)は含まれません。また、飲食物の詰め合わせの贈答についても含まれません。さらに接待飲食に付随するタクシー代について、税務上は旅費交通費ではなく交際費としての取り扱いとなりますが、「飲食代」には該当しませんので、こちらも該当しないことになります。
少し触れただけでも色々と論点があるのですが、基本的な考え方としては
「外部の人」と「飲んで食べたもの」で「一人当たり10,000円以下」のものが対象になるかと思います。
Ⅲ.よく聞かれる事項についてのQ&A
文章でつらつらと解説しても小難しくなってしまうので、最後に簡単なQ&Aを記載しておきましょう。
Q1. 改正は令和6年4月1日以後に“支出する飲食費”から対象になるが、クレジット払いや立替精算の場合にはいつで判断するの?
A1.「飲食等の行為があったとき」に飲食等の支出の事実があったものと取り扱われます。(措置法通達61の4(1)-24)よって、クレジット引き落としや経費精算が4月以降になった場合であっても、飲食等の行為が3月以前である場合には旧基準(5,000円)が適用されます。
Q2. 1人当たりの飲食費が10,000円を超えた場合には?
A2.全額が交際費に該当し、除外される部分はありません。飲食費が1人当たり10,000円を超える場合、1万円以下の部分のみ交際費等の範囲から除外することは出来ません。
Q3. 飲食店の「お土産代」や飲食等に付随する「サービス料等」は?
A3.通常の「飲食費」に付随するものとして10,000円基準の対象になります。注意点は、通常の飲食費とお土産代等を“合わせて”10,000円基準に当てはめることになりますので、お土産等の単独で金額判定することは出来ません。
別会計でお土産代を支払う場合、それは単なる「贈答品」に該当しますので、通常通り交際費に該当することになると考えられます。
Q4.飲食物の詰め合わせを手土産として贈答する場合は?
A4.飲食物の詰め合わせを単に贈答する行為は、飲食費として交際費から除外することは出来ません。これは中元・歳暮と変わらないことから、飲食その他これに類する行為には含まれず、飲食費には該当しないためです。
Q5. ゴルフの際の飲食等に要する費用は?
A5. 飲食等がゴルフとは別に単独で行われていると認められる場合を除き、ゴルフプレー代等と合わせて交際費に該当することになります。よって、交際費から除くことは通常できません。
Q6.社内飲食費は交際費から除くことが出来る飲食費に含まれる?
A6.社内飲食費(いわゆる社内交際費)は含まれません。これは法令上で飲食費の範囲から、「社内飲食費(専ら当該法人の役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するもの)」が除かれているためです(措法61の4 ⑥)。そのため、社内の人間だけで飲み食いした飲食代については1人当たり10,000円以下であっても、原則は交際費等に該当します。なお、一定の場合には、会議費や福利厚生費としてそもそも「交際費」に該当しないケースもあります。
Q7. 会食後、2次会に行った場合の金額判定は?
A7. それぞれが単独で行われる場合には、通常はそれぞれに係る飲食費ごとに1人当たり10,000円以下の判定することになります。
Q8. キャバクラ・クラブ等の費用は飲食代に該当する?
A8. キャバクラ・クラブ・ラウンジ・スナック等での接待飲食行為については、主目的が接待飲食であれば通常「飲食費」に該当します。他方、ホステスやコンパニオンとの歓談を主目的にしてしまうと建前上は「飲食費」に該当しないことになります。この点は、一般感覚的には微妙なところですが、通常キャバクラ等も「食品営業許可」を取得して営業されている「飲食店」となりますので、原則は「飲食費」に該当するものと考えられます。
ただ、1人10,000円以下で収まらない可能性も高いですし、夜のお店は役員の個人的嗜好が反映されやすいので、税務調査等においても使用目的や接待者等、細かく確認されやすい部分となります。
Q9.会議費が10,000円を超える場合には?
A9.会議に関連する弁当等の飲食物に通常要する費用については、1人当たり10,000円を超える場合であっても、その費用が通常要する費用として認められるものであれば、交際費等には該当しません。よって、交際費金額基準10,000円の俎上に載せる以前に、交際費には該当しないということになります。(弁当10,000円が妥当かという論点は除いて、、、)
Q10. 金額を分割した領収書を発行してもらえればOK?
A10. 税務上、「一の飲食等の行為を分割」して記載することは「仮装・隠蔽」にあたるとされています。この手法で入手した1人当たり10,000円以下の部分の領収書を精算し、10,000円以下飲食費として交際費から除外した場合には「仮装・隠蔽」と判断され重加算税が課されるリスクがあります。
Q11. 金額判定において消費税等は含めるの?
A11. 支出した法人(事業者)が税込経理方式を採用する場合には消費税等の額を含めて判定し、税抜経理方式を採用する場合には消費税等の額を含めずに金額判定します。
以上、令和6年度税制改正により引き上げられた接待飲食代の10,000円基準について改めて確認してみました。
昔書いたコラムでも触れましたが、交際費については「参加人数の水増し」「参加者の偽り」「領収書の分割」を行ったことによる税務調査の否認事例をこれまで数多く見てきました。そしてそのほとんどが重加算税対象になっているのも事実です。
再度、交際費の判定についての正しい知識を身につけ、正しい判断が出来るような体制を整えたいですね。
以上
横浜税理士法人
服部彰男
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